新規事業を生み出す芸術思考とは何か? 

2014年に、明治大学の阪井和男先生東北芸術工科大学の有賀三夏先生と一緒に、「新規事業を生み出す芸術思考」について、研究を始めました。

 

新規事業開発には創造プロセスが含まれていますが、これは芸術が創りだす創造プロセスととてもよく似ています。芸術というと、一人で行う営みとして考察されてきました[12]。ところが、ビジネスに適用するには、個人的な営みに限定せずにチームへの拡張可能性をもつ必要があります。

 

私たちは、チームワークで行う新規事業創造で、どのように芸術思考が応用されているのかを研究し、2015年1月10日に、沖縄で行われた次世代大学教育研究会では、本研究について、阪井先生により研究発表が行われました。2015年2月28日の情報コミュニケーション学会全国大会(山形)でも発表予定です。また、3月末には、情報技術協会より出版される『新事業テーマの発掘・育成とマーケティング調査の仕方』という本に、3人で書いた「新規ビジネスを生み出す芸術思考」の論文が掲載される予定です。

 

こちらのサイトでも、新規事業を生み出す手法の1つとして、芸術思考を使う方法や、論文の内容などをご紹介していきます。

 

そもそも、芸術思考って何!?

芸術思考とは、前述の阪井先生と有賀先生による造語で、

人が芸術を作り出す時に創出、創発する実現過程の思考プロセスからヒントを得て、そもそもは学習者主導の「生きる力」を育むアプローチ[1]

と、定義されています。

 

その前提として、「イメージを可視化する思考のプロセス」[2][3][4]があり、その背景には現実にはまだ存在していない『もの』や『こと』を可視化する能力[2][3][4][5]、「新たなビジョンをもつ能力、およびビジョン具現化のプロセスを創造する能力」[5]があると考えられています。

 

多重知能理論が芸術思考のベース

この芸術思考の基礎となっているのが、米ハーバード大学のハワード・ガードナー氏の多重知能理論[6]です。

 

多重知能理論によると、表1に示したように、人は誰でも8領域の独立した知能領域(ドメイン)をもっており、その各知能の表出の差が独自性となり個性になっているという立場をとっています。

 

現在この8領域の知能とは、言語的知能、論理数学的知能、音楽的知能、身体運動的知能、空間的知能、対人的知能、内省的知能、博物学的知能です。

芸術思考を表現するには8つの知能が必要とされています。

 

表1. 多重知能理論における8つの知能と職業[7]

音楽的知能

音のリズム、高さ、メロディーとハーモニーのような概念を理解し、使う能力。

職業:作曲家、指揮者。

身体・運動的知能

全体の全体またはその一部、手、指、腕を使い身体の運動を調整する能力。

職業:運動選手、ダンスや舞台の演技者。

論理・数学的知能

論理や、数字と演算を理解し、使う能力。

職業:コンピュータ・プログラマ。

言語的知能

心にあるものを表現し、他人を理解するために口頭、そして書面のコミュニケーションを使う能力。

職業:詩人、作家、弁護士、言語を常用する業務。

空間的知能

体の全体またはその一部、手、指、腕を使い身体の運動を調整する能力。

職業:運動選手、ダンスや舞台の演技者。

対人的知能

他の人々をよく理解し、うまく相互に影響する能力。

職業:先生、医者、政治家、セールスマン。

内省的知能

自分の考え、感情、好みと利害を理解して、そして使う能力。(自分とは、何が出来るか、何をしたいか、物事にどう反応するか、何を避けるか、何に引かれるかといった自分自身を理解する)

職業:詩人、自叙伝作者、企業家。

博物的知能

オブジェクトあるいは自然の現象を区別して、そして分類する能力。(自然界における雲や岩の形状などの特徴と同様に、植物、動物など生物間の識別能力。消費社会での車、スニーカー、化粧品、科学分野のパターン認識にも利用される)

職業:動物、植物学者、シェフ。

 

ハーバード大学教育学大学院のハワード・ガードナー氏が率いるプロジェクト・ゼロでは、芸術思考能力の発達と創造性との関連性についての研究が続けられています[8][9]。この研究においてドメインとなる知能は、多重知能理論による8領域の知能に基づいています[10]。あらゆる諸課題解決の糸口(突破口)は、多重知能理論を基盤とした知能分野と芸術思考との関連によって導かれています。

 

たとえば、課題の全体像を可視化していく芸術思考のプロセスでは、各分野の知能に働き、その課題の主旨や道筋をアート的にデザインしたりデフォルメ化したりすることで、簡潔にして明快なイメージとして構築し課題解決を容易にします。そして、芸術思考で捉えられたイメージが中核となって、各分野の知能を互いに活性化し、それらを横断的に結びつけて相互連携を図り複合的な問題解決を可能にするのです[11]。

 

この多重知能理論をベースとした芸術思考をどのように使って行けば、より創造的なビジネスを創りだしていくことができるのでしょうか。

 

今後、随時ご紹介していきます。

 

共同研究者プロフィール

阪井和男(さかい かずお)

明治大学法学部教授。人・組織・社会の情報学・経営学・死生学に関心をもつ。1952年和歌山生まれ。1977年東京理科大学理学部物理学科を卒業、同修士課程の後1985年博士課程を退学。ソフトハウス勤務後1987年理学博士を取得。サイエンスライターを経て1990年明治大学法学部専任講師。1993年助教授、1998年から教授。明治大学サービス創新研究所所長、一般社団法人 日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)理事、ドラッカー学会理事、私立大学キャンパスシステム研究会会長等。

 

有賀三夏(ありが みなつ)

画家、アートセラピー研究者、東北芸術工科大学講師。女子美術大学大学院美術専攻研究領域洋画卒業。カンザス・ピッツバーグ州立大学Master of Arts 修了。ボストン・レスリー大学大学院Interdisciplinary 学部 Art Therapy and Healing Art studies in Education 修了。2009年よりハーバード教育学大学院・多重知能理論研究プロジェクト・ゼロに参加。明治大学・死生学・基層文化研究所研究員、明治大学・サービス創新研究所研究員、富山大学非常勤講師、東北芸術工科大学にて私立大学戦略的研究基盤形成事業「生きる力を育む芸術・デザイン思考による創造性開発拠点の形成」事業中心メンバー。東京藝術学舎(京都造形芸術大学×東北芸術工科大学)での特別講座・創造の時空学「芸術思考のインパクト」コーディネーター兼ナビゲーター。O-1米国卓越能力保持者ビザ認定アーティスト(2009年~)。作品所蔵・佐藤美術館など。著書:『Three Little Ones and the Golden Mane(ちっちゃな3匹と黄金のたてがみ)』(Createspace/2010)

 

参考資料

[1]阪井和男・有賀三夏,「生きる力を育む芸術思考-知的能力の統合的な育成を目指して-」,『情報コミュニケーション学会第10回研究報告』, 14-19,2012年10月)

[2] 有賀三夏,「人生に芸術をどう使おうか?」, http://artinlife.org/ (2014年11月19日アクセス)

[3] 東京藝術学舎,「創造の時空学 ~芸術思考のインパクト」,https://ssl.smart-academy.net/gakusha/tokyo/course/detail/1441001/ (2014年11月19日アクセス)

[4] 有賀三夏,「芸術思考論」,東北芸術工科大学シラバス,2014年.

[5] 村山真理,「キャリアプランニング実習」シラバス,お茶の水女子大学,2013年.

[6] ハワード・ガードナー『MI:個性を生かす多重知能の理論』松村暢隆訳, 新曜社, 2001 年

[7] 上條雅雄,「8つの知能と職業」日本MI研究会: Japan MI Society, 私信 2014年10月12日

[8] ハーバード大学教育学大学院研究グループ,「プロジェクト・ゼロ」,http://www.pz.harvard.edu/ (2016年11月19日アクセス)

[9] 池内慈朗,『ハーバード・プロジェクト・ゼロの芸術認知理論とその実践(内なる知性とクリエティビティを育むハワード・ガードナーの教育戦略)』,東信堂,2014年.

[10] 山口栄一,『イノベーション 破壊と共鳴』,NTT出版,pp. 268-270,2006年3月3日.

[11] 有賀三夏,「アートの発信 創作活動から見える表現の可視化」,『情報コミュニケーション学会第10回研究報告』,pp. 34-37,2012年10月.

[12] 村山真理・有賀三夏・阪井和男,「生きる力を育む芸術思考」,情報コミュニケーション学会第15回研究会発表論文集,pp. 17-20,2014年11月8日.

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


ピックアップ記事

2015.1.22

カントリーリスクの高い国での事業開発で私がやっている5つのリスク対策

2015年1月20日に起きたイスラーム国による邦人2名の拘束・身代金要求の報道(日経新聞「イスラム国、邦人2人殺害警告か 身代金を要求」など…

おすすめ記事

ページ上部へ戻る