(Book)恋文讃歌
モスクワへ行く飛行機の中で、鬼塚忠氏の「恋文讃歌」を読みました。
内容(「BOOK」データベースより)
祖父・達夫の危篤に駆けつけた僕は、故郷・鹿児島の病院で、祖母・テルから初めて壮大な夫婦の愛の物語を聞かされる。テルは太平洋戦争直前、初恋の相手と結婚し、北朝鮮へ小学校教師として赴任する夫・達夫とともに海を渡る。やがて夫は出征し、テルは一人で出産。そして終戦。夫はシベリアに抑留され、テルは幼い子供を連れ、38度線を歩いて越え帰国したが、数年後に戻ってきた夫は、自白剤を打たれ廃人同然だった…。僕は祖父の最期に、祖父からテルに宛てた数字だらけの恋文を読み解こうとする―。鹿児島・北潮鮮・シベリアを舞台に、戦争に翻弄された純愛ストーリー。『Little DJ』の著者が贈る、最高の歴史ラブロマンス。
飛行機の中にも関わらず、人目も構わずに涙しました。
その訳は、妻から送る夫への愛の言葉、夫から送られる妻への愛の言葉の1つ1つが、心へ響いてきて、戦時でも人を愛するという気持ちは変わらないのだと、それなのにもかかわらず戦争に行かなければならない、そんな時代の理不尽さに対して、腹立たしいのと同時に、それでも別れなければいけなかった人たちの想いがたくさん詰まっていて、胸がいっぱいになりました。
小説に描かれている、残された暗号の手紙を解くシーンは、本当に息が詰まってしまって、
「テ・ル・へ
暗号を解いてくれたんだね
ありがとう」
の一文から、涙でかすんで、文章が読めなくなるほどでした。
暗号に込められた最後のメッセージ。それが、亡くなる前に読みとかれ、そして、廃人と化した夫を死ぬまで看病した妻への最後のプレゼントになって、本当に良かったと思います。
私の祖父もシベリアに抑留され、帰国後すぐに自死を選んだと聞いています。すでに他界した祖母も、父も、親戚も、誰もそのことに触れようとしないまま、長い年月が過ぎ去ってしまいました。もはや、誰も真相は分からないのかもしれません。詩人だったという祖父のシベリアでの状況を、この本を通して垣間見たような、そんな気持ちになりました。
父は多くを語りませんが、祖父を失い、生活の糧のために、危ない仕事をしながら高校・大学へ行ったようで、子供たちには貧乏だけはさせるまいと思いながら、育ててくれたようです。
母は上海からの引き上げで非常に大変な思いをしたようです。母はまだ小さかったのであまり覚えていないけれども、祖母や母の兄弟から、死を決意してピストルを胸に引き上げてきたそうです。帰国してからも生活を軌道に乗せるには多くの苦労があったようで、家族ばらばらで生活をせざるを得なかったと聞いています。
そんな厳しい時代に、この物語では、離れていても、思いやりと愛を贈り合う、そして、廃人となって戻ってきた夫を死ぬまでお世話し続ける(再婚を考えるチャンスは何度かあったにも関わらず)、そんな自分を貫く、大事な人を大事に思い続ける生き方に、自分の生き方はどうなんだろうか?安易なほうに逃げがちで、そこに自分の意思は本当にあるんだろうか?と、自問自答させられました。
1月には、ボストン・コンサルティング・グループの大先輩の堀さんが原作・脚本で三枝成彰が作曲したオペラ『KAMIKAZE-神風-』を見てきましたが、ここでも同じく太平洋戦争がテーマでした。
KAMIKAZEのレビューでも書きましたが、戦後67年。私たちの世代では過去のものとして忘れ去られようとしているこのときに、決して戦争とは私たちの生活とは無縁のものではないことを、そして平和のために一人ひとりがなにができるのかもっと考えるべきだと、改めて感じました。
素晴らしい本です。1人でも多くの方に、是非読んでいただきたいと心から思いました。
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