Touching the Void

山関連の人の間では、非常に有名な本と映画「Touching the Void」。本は16ヶ国語に翻訳されたミリオンセラーで、映画は2004年のイギリスアカデミー賞受賞作品。

実話です。

20代の有名になりたいという野心を持っていた2人のクライマー、ジョー・シンプソンとサイモン・イェーツは、前人未到(いまだに彼らの後に登頂成功者はいません)のシウラ・グランデ峰を制覇後、下山途中標高6400メートル、マイナス60度の世界で遭難してしまいます。遭難の80%は下山途中に起きるのです。

ジョーが滑落し、骨折してしまいます。骨折=自分の足では下りられない。このクラスの山には、救援隊なんて絶対にきません。(これない)普通ならそこで、サイモンはジョーを置き去りにして一人で下山をするのがこの世界での「常識」。しかし、サイモンはジョーを置き去りにせず、2本のザイルを使って彼を「すべり落とす」ことで下山させようとします。自分の命をリスクにかけて。
私はこんな奇抜な方法で一人救助ができるだなんて、それをやろうと思ったサイモンはめちゃすごいと思いました。

後の話に繋がるので、長々と前置きを説明しますが、この「すべり落とし」作戦では、マイナス60度のパウダースノーの中で、サイモンが自分が滑らないように雪の中に坐るスペースを掘り、ザイルを少しずつ操ることで、ジョーを下に下ろしていくのです。この間、サイモンは、坐っているだけで、動けないため、その寒さは想像を絶するほどです。また、この寒さの中、自分の「指の感覚」のみでザイルを操るのですから、そのテクニックと精神力はすざましいものです。自分の命と引き換えにしているといっても過言は無い状況です。

さて、こうしてジョーを下ろしていったサイモンですが、氷の絶壁が見えておらず、ジョーを下ろした際、ジョーは氷の絶壁に中吊状態になってしまいます。

ザイルは端まで来てしまっている。ジョーからザイルを緩ませてOK,下りて来いという合図は無い。ホワイトアウト状態で何が起きているのか全く分からない。

この状態が1時間半以上続き、サイモンは状況がわからず、しかしパウダースノーのせいで自らが少しずつ下に落ちていっていることに気付き、ジョーに何かあったのだと、このままでは2人とも死ぬと思い、ものすごく悩んだ末に、ザイルを切ります。生き残るにはこれしかない… と。

ジョーはクレバスに落ち、サイモンはその場に雪穴を掘り、一夜を過ごします。翌朝、サイモンは下山。クレバスの横を通る際、ジョーが居ないか何度もジョーの名前を呼びますが、この状態で巨大なクレバスに落ちれば普通は即死。返事が全くないため、ジョーは死んだものと思い、自分が見殺しにしたのだという思いにさいなやまされながらも下山します。

ジョーは、なんと生きていて、絶望しながらもクレバスのしたまで下りて出口を探し当て、そしてサイモンと共に設置したベースキャンプまでなんとか戻ります(骨折したまま)。奇跡の生還と言われており、彼は一躍有名人となります。確かに、あの状態で6400メートル下山するのはすごい。その精神力と体力は賞賛すべきものだと思います。(後はラッキーもあるでしょう)

この直後からサイモンは山岳会からバッシングを受けます。

「ザイルを切った奴に山は上らせるな」という理由です。

ペアで登っていれば、相手の能力と判断力に自分の命を預けているも同じこと。ザイルを切ってパートナーを見殺しにする奴とは上れないというわけです。倫理的にも間違っていると。

そして、ジョーはサイモンが自分を一度は見捨てずに助けてくれたことに感謝して、サイモンを庇護するために、このTouching the Voidを執筆し、出版し、そのストーリーの壮絶さもさることながら、サイモンを庇護しているという彼の「寛大さ」もまたヒーローとして扱われるのです。

さて、この話を読んで、皆さんはサイモンはひどいと思いますか?

私は、ジョーが自らザイルを切らなかったことに、ジョー自身が非難されるならまだしも、ヒーローとして祭り上げられたことに違和感を感じざるを得ません。

サイモンは正しい判断をしたと思います。

2人とも死ぬのか、それとも一人だけでも生き延びるのか。自分がそのポジションになったときに、自分で自らのザイルを切る判断ができないのであれば、私はそれだけの危険を冒してまでチャレンジする資格は無いと思います。

また、その判断ができる相手とのみ、また、万が一のときには自分でザイルを切る覚悟がある人同士のみ、パートナーを組むべきだと思います。

ちなみに、この映画、いったいどうやって撮ったんだ?というほどすごい映像です。アカデミー賞受賞は納得。でもね、ジョーをヒーローに祭り上げるのはやっぱりおかしいと思うんですよね。

自分が合う・合わない人の基準がこの映画を観ながら頭を整理して、なんとなく分かってきました。

私は常にある一定のラインを決めていて、そこを過ぎたら、自分で終わりにするタイプです。もちろん、ベストは尽くす。ベストは尽くすけど、どうにもならないときもある。そのときは、自らの手で潔く終わりにすべきだという変な美学(?)を持っています。
#ブンドル様美学と言うとヲタクに走ってると思われるけど...
##これが分かった人は相当ヲタクです

マイナス60度の中であれば普通は20分が限度。20分を過ぎた時点で自分で2人を助け出せる方法が見つけられなければ、自分でザイルを切ります。(切れない状態にあるとき、例えば、失神してるとかはのぞく)

仕事でもプライベートでも中途半端な人ってホントに嫌い。全力を尽くして問題解決にアタックしないなら、最初からその一歩をふみだすなっ! できないことを愚痴るなっ! 人のせいにするなっ!

...ということで、私の心の中のザイルを切りました。
#すいません、結局私の愚痴でした

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