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今年4月より、尚美学園大学で音楽キャリア論I,IIという2つの授業を担当しています。この授業では、演奏家として生きていくために、音楽生活を赤字にしないテクニックを教えています。

春学期、秋学期に、4日間ずつ、集中講義で、計30コマです。

昨日、秋学期の集中講義を終え、今年度の担当を終了させていただきました。

この授業を持つようになったのは、私が人前で演奏をするようになって20年以上になりますが、今まで一度も演奏活動を赤字にしたことがありません。そういう人は珍しいそうです。

音大では、「演奏を黒字にする」ということを、演奏家志望の学生には、あまり教えてこなかった領域らしいのですが、私のバックグラウンドに興味を持ってくださった尚美学園の先生方に、音大生向けにキャリア論を教えないかとお声をかけていただき、このような授業を持つことになりました。

この授業を引き受けるにあたって、以下のことを意識しました。

毎年1万人近くの若者が音楽大学や教員養成系大学・学部を卒業していますが、演奏家としてデビューできる若者はごく一握り。

演奏家になるために教育されてきたけれども、演奏家として生きていくのか、音楽関連の演奏家を支える仕事に就くのか、それとも、音楽は大学までで、違う道に進むのか。

そういうことをきちんと考える場を作りたい。

演奏家として生きていきたいと思う人には、学校ではあまり教えてこない現場のテクニックを教える授業を作りたい。

春学期に行った音楽キャリア論Iでは、音楽家が成功するに至る典型的「キャリアの道」はないこと、成功している音楽家は、自分で自分の「キャリアの道」を戦略的に組み立て、それを実行している音楽家は「マルチ起業家」であることを紹介し、マルチ起業家になるための基礎を教えました。

  • 音楽家として成功するというのは、どういうことか? 成功の定義をする
  • 人脈を創る ― ゼロから人脈を築き上げるためのネットワーク作りの仕組みを学ぶ
  • イメージを創る ― 演奏家としてのパーソナルブランディングの手法を学ぶ
  • デモ音源・CDを作る ― 駆け出しの演奏家の自己紹介に不可欠と言われているデモ音源・CDを赤字にせずに作る方法を学ぶ(著作権、ライセンス、資金調達、販売方法を含む)
  • 自分を売り込む ― モーツァルトにマネジャーはいなかった。モーツァルトのようにマネジメント会社なしでも成功できるセルフマネジメントの手法を学ぶ
  • マルチ起業家になる ― フリーランス的なマルチ起業家として、経理・財務、法務、マーケティング… 必要不可欠なファンクションを学ぶ
  • あなたのキャリアをどう考えるか? ― 自分の個性を活かす職業を探す方法を学ぶ

秋学期は演奏という観点から、コンサート活動を自分自身で行っていけるようにすることをゴールに、コンサート企画、コンサートを達成するために必要なチラシづくり、集客、舞台トーク、メンタルマネジメントなど、実践で今日から使えるものを教えました。私が作りこんでいる顧客名簿やDM文面など、見せられるものは、すべて見せました。

  • 魅力的なコンサート企画の作り方 ― ターゲット顧客設定、顧客ニーズ分析、テーマの設定手法、楽譜が見つからないときの探し方 など  
  • コンサートを実現させるための事前準備 ― 会場の選定から、コンサートを成功させるためのチームの作り方、著作権法・消防法など主催として知っておかねばならない法律、アンケートの作り方 など
  • チラシの基礎 ―デザイナーに発注するのでも、自分で作るのでも、チラシの基礎をしならいといいチラシが作れない! チラシレイアウトの基本を学んだあと、いいチラシ、悪いチラシを解析する
  • 資金繰り ― チケットを売ってお金を得る前に、会場費やチラシ代などの支払いが待っている! キャッシュフローをどう考え、演奏会を赤字にしないかを考え、予算表を作る。
  • 広告・宣伝、集客 ― コンサートで多くの演奏家が悩む集客。しっかりと集客するための顧客名簿の作り方から、お客様へのアプローチ方法を学ぶ
  • 舞台での見せ方 ― ステージ上での見栄えや立ち振る舞いをはじめ、観客を楽しませるトークや演出について学ぶ 
  • 演奏における不安・あがりのマネジメント手法 ― 不安・あがりをどうやってコントロールするか? 不安のタイプと認知行動療法をはじめとする様々な対処法を学ぶ。声楽・ピアノの人は暗譜の問題もあるので、効果的な暗記方法についても学ぶ。
  • 演奏家のヘルスマネジメント―82%の演奏家がキャリアのある時期にけがをした経験があるという調査結果がある。けがをしないために、けがをしてしまったら、自分のキャリアをつぶさないためにどこへ行けばいいのか?を学ぶ 
  • コンサート終了後にすべきこと―次のコンサートへ繋げるためにやるべきことを学ぶ
  • コンサート企画発表―春・秋学期と学んだことをベースに、コンサート企画を作り、発表する

普通はここまで大量に情報を詰めて講演しないのですが、今回は、情報を詰められるだけ詰め込みました。

学生にすべて消化してもらおうとは思っておらず、どちらかというと、卒業して、演奏家としてやっていきたいと思い、活動をし始めて、困ったときに、ヒントになる資料を残しておいてあげたい。そんな思いがありました。

最初から完璧に出来る人はいない。

自分でやれることをやっていくしかないのだけれど、ヒントがあったほうが進みやすいのではないでしょうか。

私も、この授業の資料を作りながら、改めて、自分が出来ていること、できていないこと、もっともっとやれることというのが整理されました。

本業(私はビジネスが80%、音楽が20%という生活です)で学んだことの多くが、演奏活動に結びついていることを、改めて感じました。音楽だけしかやってこなかったら、きっともっと多くの困難にぶつかっていたと思いますし、もしかすると、音楽を続けられなかったかもしれないと思います。

生徒に教えることで、自分の中で気づいていなかったことにも、たくさんの気づきがありました。生徒から学ぶことがとても多い授業でした。

こうして教える機会を作ってくださった尚美学園大学の先生方に心より感謝をお伝えしたいと思っています。

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