【本】原爆は日本人には使っていいな

Photo岡井敏氏の「原爆は日本人には使っていいな」を読みました。

内容(「BOOK」データベースより)

広島・長崎への原爆は軍事ではなく犯罪だが、日本では核廃絶を掲げる機関もこれを隠す。「原爆は日本人に使用」はルーズベルトとチャーチルによる決定(ハイドパーク覚書)。人種差別で原爆はドイツではなく日本に向けられた。

怖い、とにかく、怖過ぎる本です。
怖いと思った理由は2つ。
1つ目は、この本に書いてある「人種差別で原爆はドイツでなく日本に投下された」ということ(真実かどうかは別として)。
2つ目は、新聞や雑誌などで取り上げられている本で、多くの方が読んでいる、あるいは、広告の文言を信じてしまって、これが事実なのだと、他の歴史書などを熟読せずに、受け止めてしまう可能性があること。
ハイドパーク覚書(ルーズベルト米大統領とチャーチル英首相の会議の合意で両名の署名入り)についての箇所で

「爆弾」が最終的に使用可能になった時には、熟慮の後にだが、多分日本人に対して使用していいだろう

と書かれております。ちなみに原文は以下のとおり。

when a “bomb” is finally available, it might perhaps, after mature consideration, be used against the Japanese

著者は”used against the Japanese”を日本人に対して使用と訳し、またその意味が「人種差別によるもの」でその問題の深さを切々と唱え、その誤訳を正そうと孤軍奮闘する様を書き綴っています。
少なくとも私が核物理学を勉強していた時に、アルゴン国立研究所の方やイリノイ大学の教授たちから習ったことや、大人になってから読みあさった本では、日本に原爆が投下されたのは、ドイツとの戦争が終わりに近づいていたため、戦争を終わらせるという目的で新しい爆弾を試験してみる先として日本が候補にあがったと聞いています。
以前読んだ荒井信一氏の「原爆投下への道」には、このハイドパーク協定(たしか荒井氏は覚書ではなく協定と書いていたと記憶していますが、間違ってたらごめんなさい)に関して分析を行っており、その中で、人種差別的要因があった可能性はあるが、それを断定できるものはないと書いていたと記憶しています。
いろいろな見方がある1つの見方として、この「人種差別」という理由を挙げるのはいいと思うのですが、それがすべてとして議論を展開するのは、無理があるのではないかと思いました。

なぜか分からないが、(広島平和記念)資料館は「原爆は日本人に対して使用」を展示しない方針を守る。「原爆は日本人に対して使用」という本当のことを、何とか人に知らせないようにする。隠そうとする。隅っこにちょっと書いて言い逃れをしようとする。そして問答無用。これは犯罪行為ではないか。核廃絶を目ざすはずの機関が、実際には核廃絶妨害をやっているのだ。そして、その妨害は「オバマジョリティー」とか、白い折り鶴とかで隠される。これが残念ながら、日本の核廃絶運動の現状なのだ。(中略) 私はほぼ一年の経験から意外なことを知った。それは、核廃絶を掲げる人も団体も、「日本人に対して」against the Japaneseの問題に対しては、避けようとすることだ。広島平和記念資料館、広島市平和推進課、朝日新聞社、原水禁、原水協、被団協、その他、大勢の人々、皆そうだ。(p.127)

ゆえに、上記のように孤軍奮闘ぶりを書かれていても、素人である私が読んで疑問を抱くのですから、各団体や新聞社が取り上げない理由になるのではないかと思いました。
著者の核廃絶に対する活動には頭が下がりますし、尊敬の念を抱きます。また、戦争を終わらせるという名目を掲げ、核兵器を使った米国側は非難されるべきだと思います。
が、本書を読みながら、物事のある側面のみを取り上げ、それを声高に主張する怖さというのを感じるのです。


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コメント

  1. こんにちは。
    いつも拝見しております。
    さて今回の記事は大変参考になりました。
    漫画ではあるのですが、戦争論 小林よしのりさん著にも
    同じようなことが記載されておりました。

    • 秋山ゆかり
    • 2010年 9月 16日

    くまおさん、
    いつもコメントありがとうございます。
    仕事に関係していることなどはほとんど書けないので、ブログんはどうしても音楽とエンタメ関連の話題しか書けないのですが、この本は、仕事とは関係なく、しかも「怖い!」と思ったので、物議をかもすかも?と思いながらも、書かせていただきました。
    小林よしのりさんも同じようなこと書かれていたんですね。戦争論、さっそく読んでみます。

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