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2015年1月20日に起きたイスラーム国による邦人2名の拘束・身代金要求の報道(日経新聞「イスラム国、邦人2人殺害警告か 身代金を要求」など)を受け、クライアントやお付き合いのある企業から、「カントリーリスクの高い国での事業開発をどうしたらいいのか?」というご相談が相次いでいます。

 

今まで、アルジェリアやパキスタン、ロシア、インドなど、カントリーリスクが高い国で事業開発を担当してきた経験からしかお話できないのですが、私の基本方針は、「その会社にとって、必要であればカントリーリスクもリスクの1つとして考慮した上で、実施すべき」です。日本国内だけでの成長は厳しく、どうしてもカントリーリスクのある国でもマーケットを広げていかなければならない。資源を確保し、競争優位性を実現する上で、カントリーリスクのある国との取引をしなければならない。など、各社のニーズをベースに、「どの国であれば、もっとも実現性が高いか?」を判断するのは、「日本のどこで展開するのか?」と同じ議論だと思います。

 

カントリーリスクはあくまでもリスクの1つです。リスクをきちんと評価し、そのリスクを最小限に抑えるべく、適切なトレーニングや人員配置などのリスクヘッジを行うのであれば、カントリーリスクが高い国でも、低い国でも、事業開発の成功率は変わらないと思います。カントリーリスクが高い分、実行までのスケジュールは、自分たちが思い描いたようなスケジュール通りにいかないかもしれません。しかし、先行者メリットというのも享受しやすことは間違いないでしょう。リスクが高いと周囲が躊躇している間に、キープレイヤーとのパイプを作り、国が安定したと同時に大型の案件受注をするということも、しばしばあります。私自身、独立をしてすぐから、各国政府からの仕事を受注できているのも、「Ms. Akiyamaは、我が国が大変だったときにも変わらずに付き合えた」と評価されているからだと思っています。

 

では、リスクヘッジするために、私がどのようなことをしているのか、その一部をご紹介します。これは、GEやIBMなどのグローバル企業に勤めていた頃と、やっていることはほとんど変わりません。

  • 複数ソースによる情報収集
  • 現地パートナーの確保
  • 家族丸ごとの抱え込み
  • テロ対策を含めたリスクトレーニング
  • 政府及び軍との太いパイプ作り

複数ソースによる情報収集

すでにやっているとは思いますが、新聞を1例として取り上げても、「どこの国のどの新聞か」によっても、ずいぶんと情報の内容は異なります。

日本のメディアだけでなく、欧米各国やアラブ、現地メディアなどを比較し、検討しなければなりません。もちろん、各国で持っている情報屋をはじめ、政府や軍、そして、有識者の方々、社内スタッフなどの情報を統合した上で、判断する必要があります。

 

例えば、本日2015年1月22日のBBC, CNN, アルジャジーラ, Syria Timesを比較しても、一面で取り扱っているニュースはどれも異なります。また、同じニュースでも、取り扱われ方が異なります。どのような点が同じで、どのような点が異なっているのか。これは、その国やその新聞社の位置づけによっても異なるので、必ず複数目を通したほうがいいと思います。もちろん、時間はかかるのですが、ざっと目を通すだけで、「あれ違うな?」と違和感を持つことができるので、その違和感をどれだけ「ストック」できるのかで、情報収集の感度は変わってくると思います。

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また、最近、ご相談のあった企業の中で、「有識者=日本とアメリカの有名大学の先生」と位置付けられている方々がいらっしゃり、ディスカッションをした際に、言葉は悪いのですが、「気持ち悪い」と思いました。その気持ち悪さは、確かに日本では、その方々の名前が有名かもしれませんが、現地あるいはグローバルのその業界では、まったく評価されていない方々だったからです。「肩書き」だけに頼らず、誰が最新の正しい情報を持ち、それをベースにアドバイスをしてくれるのか。それをきちんと見極める「目利き能力」が本社スタッフや担当者に求められている能力だと思います。分からなければ、その業界で活躍している同業他社(つまり競合)に聞けばいいのです。私は競合から聞かれても、その情報はオープンにしています。有識者の方が誰と付き合うか。メリットがより受けられる人と付き合うのは当然です。私が教えなくても、遅かれ早かれ誰が有識者かは分かるでしょう。そこで競争するのではなく、本業で競争すればいい。そう考えています。

 

現地パートナーの確保と、現地スタッフは家族丸抱えをする

 

日系企業で、もちろん、現地パートナーとやっている方も多数いらっしゃるのですが、それと同じくらい、「日系とおつきあい」のところもあります。日系企業あるいは、現地にいる日本人としか付き合っていなければ、有事の際のリスクは格段にあがります。もちろん、日ごろから情報を入手するという意味でも、現地パートナーや現地スタッフは不可欠です。私は、日系のお付き合いももちろんしますが、全体の活動の15%以下にしています。残りの85%は、現地パートナーや現地スタッフとのおつきあいで、現地ネットワークを作ることを第一目標に掲げています。その方が、事業開発のプロジェクトの実現性がより確かなものになるから、有事の際に便宜をはかってもらえるから、などの理由からです。

 

また、現地スタッフは、カントリーリスクが高くなればなるほど、家族ごと丸抱えをするようにしています。こういうことを書くと「露骨だ」と言われるかもしれませんが、実際に多くのグローバル企業では、密告や裏切りのリスクを下げるために行っていることです。一族丸抱えすれば、一族の誰かが裏切ろうとしても、その家族、妻や子供たちをこちらが抱えているため、なかなか裏切ることができない。テロのターゲットとしてのリスクは下げられます。そんなにたくさんの仕事を創りだせないという場合でも、無理をしてでも、最低1家族から3人以上は雇うようにしています。

 

 テロ対策を含めたリスクトレーニング

 

日本から出発する前には、必ずテロ対策を含めたリスクトレーニングを受けてから渡航しています。特に、テロや人質にとられる危険性がある国では、万が一遭遇したとしても、どうやったら助かる可能性が高くなるのか?というトレーニングを受けているのと受けていないのでは、生存確率は大きく異なるのではないかと思っています(これはあくまでも私の感覚であって、統計数値を見たわけではありません)。

 

例えば、私は以前、レストランでのテロに巻き込まれ、人質として拘束されたことがありますが、24時間生き延びていれば、軍あるいは他国の介入(特に欧米人が多い場合は米国の介入)が実施されることが多いため、生存確率は非常に高くなるということを教えられていたので、パニックを起こす前に、「どうやったら24時間体力維持ができるか?」と考え、行動に移すことができました。また、著書にも書きましたが、暴動が起きた時に、クローゼットの中にパスポートとペットボトルを持って24時間以上身をひそめたこともあります。(ペットボトルは1本は、飲料水として。もう1本は、トイレ用)

 

また、女性の場合は、レイプなどの危険もあるため、万が一レイプされた場合はどう対処するのかというトレーニングも受けていっています。モーニングアフターピルを処方してもらい、それを携帯することはもちろんのこと、レイプを専門とするPTSDの専門家(精神科医とカウンセラー)の連絡先を持って、渡航しています。幸い、レイプ被害にあったことはありませんが、(ものすごく危険地帯へ行くときは、セキュリティを雇っていることもあると思います)、戦争が始まってその中を脱出してきたときなどは、精神的にかなりまいったので、精神科とカウンセラーにずいぶんと助けていただきました。

 

このようなリスクも含めて、事前準備をしっかりとしていくことで、どういうことが起こりうるのか、万が一起きた場合にどう対処するのかをあらかじめシュミレーションできているのとできていないのでは、大きな違いが出てくるのではないかと思っています。

 

トレーニングを受けるもう一つのメリットは、「なぜそこまでして自分はこの仕事をしたいのか?」ということと向き合うきっかけにもなります。「会社に言われたから行く」のではなく、「私にはこの仕事をする必要がある。それは○○という理由」と定義できるようになります。私が、IBMを辞めた一番大きな理由は、そこに理由を見いだせなくなったからです。

 

政府及び軍との太いパイプ作り

 

カントリーリスクの高い国では、政府と軍との命令系統が違うケースも多々あります。政府だけにパイプを作っていても、軍にパイプが無ければ、「困った」ことになりかねないので、3か月~半年をターゲットに、人脈作りにいそしみます。

外国人がどうやってネットワークを作っていくのかとよく聞かれるのですが、正式なルート(日本政府や大使館)をはじめ、プライベートのネットワークも作ります。

 

日本でできることは、日本に来ている留学生などのネットワークからの紹介や、最近ですとSNSなどで知り合って、そこから紹介してもらって入っていくというやり方をやっています。また、現地では、高級ホテルのラウンジなどで、声をかけて、お友達作りに励みます。もちろん、現地スタッフの家族とのおつきあいも大切にしています。

 

特に、留学生の方は、中上流階級の方々が日本や欧米に来ているケースが多いため、母国でのポジション(ファミリーのポジション)が非常に高いケースがしばしばあります。私が中東で事業開発をした際に一番頼りにしていたのは、日本の大学に留学してきていた王族の方でしたし、イスラム圏のある国の軍の最高司令官のお嬢様と長らく親しくしていて、その国での有事の際には、お父様に「娘が世話になった人だから」とずいぶんと助けていただいたこともあります。日本国内にいるときから、できることはいろいろとあります。海外での事業開発を考えている企業は、是非、留学生ネットワークの支援を検討したほうがいいと思います。

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