上智のコミカレ「生殖医療・倫理・法」 第九回「日本における生殖補助医療」

第九回は、埼玉医科大の石原先生の「日本における生殖補助医療」でした。

今回は、非常に参考となるデータ満載で、先生の力の入った資料が、すごい!!

データの多くは、パブリックデータなので、元データをあたり、こちらにも記載しておこうと思ったので、記事掲載が本日となってしまいました。

レクチャースタートは、91年のVannity Fairのデミー・ムーアの妊婦ヌードの表紙!! うわぁ、こんなの出しちゃうんだ!?と、ちょっと驚きでした。確かに、このデミー・ムーアの妊婦ヌードは、この業界では、「妊娠の考え方を変えた象徴」とされているのですが… まさか、ホントに出すとは… (コミカレとはいえ、大学の授業なので!)

その後、人工動態、出生数の現況、などを出されました。(公式資料なので、私も同じものを掲載します)

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http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei01/index.html より

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http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/dl/gaikyou23.pdf (P.4より)
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http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/dl/gaikyou23.pdf (P.7より)

このデータを出された理由は、全年齢の合計での特殊出生率をみるのではなく、年齢別に見て議論しなければ、まったく意味がないということを、石原先生はおっしゃっていました。これを見れば、2回の変化があり、1回目は、昭和から平成にかけて、そして、2回目は2000年前後です。また、明らかに20代の出産が減っており、30-34歳、ここ最近は、35-39歳の出産が増えていること、そして、ここでは数字が小さすぎて見えにくいですが、40-44歳の出産が増えていること。これを見ると、前回議論にあがっていた21トリソミーなどの、異常が出ても致し方のないことが分かります。

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http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/dl/gaikyou23.pdf (P.7より)

以前は、鳥取は、もっとも悪い地区として挙げられていたけれども、それは10年ほど前のスタディであって、この10年で大幅に変わったことの例だと、石原先生はおっしゃっていました。これをみると(母数が少ないから率があがるのですが…)九州、山陰があがっていることはこの10年で変わった点だそうです。

この後は、日本の数字だけではなく、国際比較をすることで、日本が今後どうなっていくのか、その姿が分かるとおっしゃり、いろいろな国際比較の数字を出してくださいました。(ちょっと古いものもありましたが)

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http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2011/23webhonpen/html/b1_s2-1-3.htmlより

偶然なのか、三国同盟国であった、日本、ドイツ、イタリアの状況が似ています。石原先生のお話しですと、チェコなどは、もっと大変なことになっているとか。

これは、ヨーロッパとの比較ですが、アジアでの比較を見るとこんな感じです。

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http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2011/23webhonpen/html/b1より

韓国もシンガポールも日本よりも悪い状況にあるのが、わかります。日本だけの問題ではないことを石原先生はご指摘されました。

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David Bloom: Science 29 JULY 2011, 333:562より

これを見ると、アフリカの現状は、1950年ごろのアジアと同じような状況であり、”世界の各所で同じことが繰り返されているに過ぎない”と、この論文でDavid Bloomは述べています。

このことから、石原先生は、海外のデータと日本のデータを比較し、考察することの重要性を御指摘されていました。

さらに、晩婚化について言及され、晩婚化が少子化を促していること、これも、データによって示されました。

授業のスタートは、データを大量に見せ、現状がどうであるかを諸外国と比較された後、不妊症について、そして、体外受精・顕微授精などの生殖補助医療についてお話しがありました。

ここで驚いたのは、体外受精については、90年代前半に技術が確立された後、ブレイクスルーとなるような技術が出なかったために、妊娠率はほとんど変わっておらず、また、体外受精をする意味のなさについて、石原先生が語られたことです。(石原先生は、80年代からこの領域に関わってこられた数少ない方なので…)

妊娠率に影響する因子が特定できているのは、2-3だけで、それ以外は全然わかっていないことは、この業界で仕事をしている人の間では、常識ですが、改めて数字にされると、「そうだよねぇ。。。 数字でみると説得力あるけれど、なんでこれが一般に広く使われていないんだろう?」と疑問を持ちます。

以下は業界の常識ですが、一般的にどのくらい知られているのかは不明。

女性の太りすぎ(痩せすぎ)は妊娠率に大きく影響がありますが、男性の体重は関係がありません。
女性の飲酒は妊娠率に影響がありませんが、男性の飲酒は影響があります。
女性も男性も喫煙は影響があります。

ここから言えるのは、子供が欲しい方は、太りすぎ(痩せすぎ)の女性は適正体重にして、男性はお酒とたばこをやめ、女性はたばこをやめましょう!ということです。

女性の体重については、BMI20-22が一番良いそうです。(データは紙でありますが、ネットで公表されているものは見つけられず)

このほか、生殖関連の仕事をしていたにも関わらず私が知らなかったのは、日本が凍結胚で生まれてくる子供の数が、世界に突出して多い「生殖医療では異常な国」だということでした。石原先生が、日産婦のデータを基に作られた資料では、半分以上が、凍結胚で生まれてくる子供でした。ここは、まだ技術も浅く、今後モニタリングが必要だと石原先生がおっしゃっていました。

日本のART実施施設は、2000年前半で頭打ちとなっており、530-540クリニック程度で、さらに妊娠率も90年代からほとんど変わっていないというのが現実。石原先生が御指摘するように、データから見ると「日本の(海外もそうですが)不妊治療の技術は90年前半で技術は成熟しており、妊娠率は改善されていない」ということは、本当のようです。

日本の不妊治療をされている方の年齢が40以上の方が1/3以上を占めている現状を考えれば、そして、技術的にもブレイクスルーがなかったことを考えれば、当たり前なのかもしれませんが、「多くの患者さんにお子さんを抱ける喜びを」をスローガンに、関係者が仕事をしてきた20年の年月を考えると、恐ろしい数字です。

このほか、日本の生殖医療の価格が世界では最低水準にあること(これは業界の人にとっては常識で、アジア諸国の中で、日本より安いのは韓国くらいで、欧米と比較すると1/3以下の日本は、生殖医療がとても安くて受けられる国との認識)、生殖革命によって明らかになった問題、ARTに関わる選択肢(必ずしもすべてのカップルの希望がかなえられるわけではない)などを議論されました。さらに、最近のARTに関する動きとして、議員立法についても言及され、80年代から現在までを駆け抜けた授業となりました。

医学的な観点で生殖医療について語られるのは今回が最後だそうですが、とても濃い内容の授業でした。

上智コミカレ「生殖医療・倫理・法」の記事

 

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